ハワイからの手紙 やさしい風に吹かれて-7 アロハオエ〜また逢う日まで〜
2010年4月に、私を含め愛する家族をハワイの海に散骨した友人たちと共に「ハワイ・メモリアル・クルーズ」という、海洋葬のお手伝いをする仕事を始めました。散骨自体日本人にはまだ馴染みがありませんが、最近はお墓に対する人々の意識も変わり、お墓を看る人がいないという理由から自然葬を希望する方も少しずつ増えてきているようです。
散骨とは故人の遺骨を海に流すことを言います。故人の意思を尊重してここハワイの美しい海にお還しするのです。それを通して残された家族に心の癒しと慰めを届け、彼らもまた新しい人生のスタートをしていく、それを支える大切な儀式なのです。
アラモアナビーチの横にあるケワロ湾から船は出港します。ダイアモンドヘッドに向かって行くこと30分、ワイキキの沖までゆっくりと優しい海風に吹かれながらクルージングします。ハワイアンミュージックや賛美歌が流れてくると、故人との思い出が沸き上がってくるのです。そして、ゆっくりと進んだ船は沖に着きそこでエンジンを止めると、静かな海のうねりと優しい海風だけが残るのです。遠くを見渡すと水平線と空の境目が見える。それはまるで天国への階段があるのかと思うような光景で、希望の光が差し込んでくるのです。
そして、聖書からのメッセージと賛美によって心が開かれ、心の出口である涙が溢れ出てきます。故人の肉体が滅びても霊と魂は永遠である。そのような永遠のいのちの確信が得られ、不思議な平安に包まれます。献花で海に撒かれた花びらが、スカイブルーの海まで届くまでの時間、一瞬、時間が止まるような感じです。海面にゆらゆらと浮かんだカラフルな花びらが、潮の流れにのって海面の上に浮かんでいます。その海をいつまでも眺めつつ、ハワイ王朝第8代女王リリオカラニによって作られた歌「アロハ•オエ」が流れ、残された家族の気持ちを代弁してくれて、心が潤うのです。そして、愛する故人と再び天国で逢える希望と、その時までしっかりと今を生きようという思いが与えられ、しばらくのお別れの時に神さまから力を頂くのです。
「あなたがたにも、今は悲しみがあるが、わたしはもう一度あなたがたに会います。そうすれば、あなたがたの心は喜びに満たされます。そして、その喜びをあなたがたから奪い去る者はありません。」(ヨハネ一六:二二)
今まで何人もの方の散骨式のお手伝いをしてきました。ハワイが大好きだった方、昔家族でよくハワイを訪れて思い出の地とする方、故人を通してハワイに遺族が集まった方々。それぞれ置かれた状況も異なるため、さまざまなドラマを生む散骨式となります。しかし、その共通点は、式に参加した方々が確実に何かをつかんで帰られるということです。今まで遺骨を大切に持ち続け、その握りしめていたものを手放すという作業は、実は遺族にとってとても大切な心の営みなのです。その遺骨を手放す事によってさまざまなことから解放されていく。散骨は、過去に心が捕らわれ力を失っている人々に、今をしっかり生きるために新しい扉を開く機会を与える恵みの時なのです。悲しみはかならず喜びに変わるのです。
飯島寛子(いいじま・ひろこ)
世界の第一線で活躍したプロ・ウィンドサーファー飯島夏樹さんと結婚。4 人の子ど もを授かったが、夫は肝臓ガンのため2005 年に召天。 夏樹さんが病床で書き遺した『天国で君に逢えたら』(新潮社)など3 冊の著 書は大きな反響を呼び、映画化された。寛子さんも、自身と家族の“それから” を『Life パパは心の中にいる』(同)に綴っている。現在ハワイで、愛する人 を亡くした方をサポートする自助グループのNPO 法人HUG Hawaii や、 ハワイ散骨クルーズBlue Heaven, Inc. の働きに携わる一方、エッセイスト、 ラジオのDJ として活躍。 担当番組「Wiki Wiki Hawaii」が、毎週日曜日の 朝5時からインターFM で放送されている。マキキ聖城キリスト教会会員。