ノアの子ども:3民族で広がる バベルの塔の建設と崩壊
民族の祖セム、ハム、ヤフェテ
洪水によって人類が滅ぼされた地に降り立ったノアの息子たちは、セム、ハム、ヤフェテの3人でした。このあと、人類はこの3人から増え広がっていくことになります。
ところでノアは、箱舟を降りた後、ぶどう畑を作り始めました。そしてあるとき、収穫したぶどうで作ったぶどう酒を飲み過ぎて酔っぱらってしまい、裸になって眠り込むという醜態を演じます。これを最初に見つけたのがハムでした。ハムはそんな父の姿をかばうどころか、面白い光景だと言わんばかりに、セムとヤフェテを呼びにいきます。
セムとヤフェテはその話を聞くと、着るものを持って駆けつけますが、父の醜態を見ないために後ろ向きで近づいていって、父の尊厳を守りながらその体に着物をかけました。
目が覚めて事の一部始終を聞いたノアは、セムとヤフェテを祝福し、ハムに対しては「カナンはのろわれよ。兄たちの、しもべのしもべとなるように」(創世記9・25)と言い渡します。
創世記10章には、この3人の子孫の系図と、彼らがどの地域に住んだかということが記されています。これを現代の地図に置き換えると、ヤフェテの子孫は黒海とカスピ海あたりからトルコ、ギリシャ、ヨーロッパ南部に広がり、ハムの子孫は北アフリカ、エジプトあたり、セムはイラン、イラク、シリア辺りに広がりました。
バベルの塔の建設と神の対応
やがて、ハムの子孫の中から、「地上で最初の勇士」と呼ばれるニムロデが誕生します。「主の前に力ある狩人ニムロデ」(創世記10・9)と書かれているニムロデは、バベル、ウルク、アッカドと、複数の町を建て、さらに領土を広げてニネベ、レホボテ・イル、カルフ、レセンなどの町を建てました。
このニムロデが建てた町の1つであるバベルの人々は、あるとき、「頂が天に届く塔を建てて、名をあげよう」(創世記11・4)と言って、レンガと瀝青(アスファルト)を用い、巨大な塔を建て始めました。後に「バベルの塔」として知られることになる建造物です。
一見、特に問題のない行為のようにも思えますが、実はここには、人が神に追いつき、神を超えようとする身のほど知らずの傲慢さと背きの罪が潜んでいました。「主の前に力ある狩人」ニムロデが建てた町であるのに、領土が広がり、アスファルトを使えるほど文明が進んでいくにしたがって、あたかもニムロデ自身、ひいてはそこに住む民たちの力で栄えているかのような勘違いをしていることが「名をあげよう」ということばに表れています。
これを見た神は、それまで1つの言語でコミュニケーションをとっていた彼らのことばを乱し、各々が別々の言語でしゃべるようにして混乱させ、民を世界の全面に散らしてしまいました。
ちなみに、イランやイラクにはジックラトと呼ばれる建造物の遺跡が現存しますが、これは古代メソポタミアで階段状のピラミッド神殿だったものです。これらのうち、バビロニアにあったジックラトが、バベルの塔であっただろうと考えられています。
人間の寿命と長寿
善悪の知識の木の実を食べると必ず死ぬと告げられていたアダム。しかし、その場ですぐに死んだわけではありません。アダムは930歳、息子のセツは912歳まで生きました。そして、ノアが、600歳のときに世界を覆う大洪水が起こり、ノアの家族のほか人類は滅びました。このときに神は、「人の齢は120年にしよう」と告げました。イスラエル民族の祖先となるアブラハムは175歳、ヤコブは147歳と、寿命は次第に120歳に近くなっていきます。現代では、レオナルド・ヘイフリック博士の「細胞プログラム説」によると細胞の寿命が人間の寿命を決めているようで、それは120歳程度と想定されるそうです。