ハワイからの手紙 やさしい風に吹かれて-11 喜びと夢を運ぶトラック

二00五年二月二八日に主人を天国に送り八年の時が過ぎようとしています。その日以来私は三歳から十歳までの四人の子供たちをもつ一家の大黒柱となってしまいました。けれども大黒柱という逞しさは私にはなく、実際は「小黒柱」でしかなかったと思います。

当時、亡き主人は車社会のハワイでの生活に困らないようにと、トヨタのミニバンを残してくれました。そのミニバンは私たちをあらゆる所に運んでくれる家族の助っ人のような働きをしてくれました。今でもいろいろな想い出のシーンにこの愛車の姿があります。

さて、この愛車にも買い替えの時期がやってきました。そのため飯島家では家族会議を開いたのです。以前とは異なり今では二人の子供達が車の免許をもっています。おかげで今までは母親一人で行っていた子供達の送迎を、彼らが手伝ってくれるようになりました。時には自分たちだけで行ってくれるようになり、時間の制約の負担が軽くなりました。しかし運転手が増えることによって、彼らの行動範囲が広がり、どうしても車は最低でも二台必要な状況になっていたのです。

すでに一台普通乗用車を別にもっています。さて二台目はどうしよう?

車に興味のある息子達は、自分の主張を押し付けずに、忍耐をもってひたすら静かに一家の小黒柱の決断を待っていました。私はその時不思議とその息子たちの姿に心を動かされたのです。祈っていくうちに、迷っていた自分の心が整えられて、神様からの思いが明確に与えられました。「トヨタのトラック、Tacomaにしよう」と言葉が出たのです。その瞬間息子達が「やったー!」とガッツポーズをして応えたのです。それは家族の輪の中に新しい光が灯った瞬間でした。

このTacomaは五人乗りで荷台が少し小さめの車です。そのトラックで私たちは週末になるとアウトドアで釣りに出かけたり、年に二回はキャンプに行ったりします。子供達のスポーツの送迎で、フットボール・バスケットボールと汗臭い道具を乗せたりもします。また、故障した原付バイクを運んだり、大型スーパーで購入した大量な食材や荷物を運んだりします。

ここまで家族みんなで生活全体のことを考え、それぞれのことを思い合い、意見を一つにしていくプロセスを踏むことができたことは、とても幸いな経験でした。家族の一致と調和の麗しさを胸いっぱいに感じ、平安な気持ちで満たされました。

「見よ。兄弟たちが一つになって共に住むことは、なんというしあわせ、なんという楽しさであろう。」(詩篇133:1)

そのトラックの購入後すぐに、友人の引越しや大きな荷物を運ぶために用いられました。「寛子ちゃん、ありがとう。本当に助かったわー」と。自分たちのためだけではなく、周囲の者のためにもお役にたてる。そんな喜びもこのトラックが運んでくれています。次は私たちをどこに運んでくれるでしょう。喜びと夢を運ぶ器として用いられたらいいな…。

飯島寛子(いいじま・ひろこ)

世界の第一線で活躍したプロ・ウィンドサーファー飯島夏樹さんと結婚。4 人の子ど もを授かったが、夫は肝臓ガンのため2005 年に召天。 夏樹さんが病床で書き遺した『天国で君に逢えたら』(新潮社)など3 冊の著 書は大きな反響を呼び、映画化された。寛子さんも、自身と家族の“それから” を『Life パパは心の中にいる』(同)に綴っている。現在ハワイで、愛する人 を亡くした方をサポートする自助グループのNPO 法人HUG Hawaii や、 ハワイ散骨クルーズBlue Heaven, Inc. の働きに携わる一方、エッセイスト、 ラジオのDJ として活躍。 担当番組「Wiki Wiki Hawaii」が、毎週日曜日の 朝5時からインターFM で放送されている。マキキ聖城キリスト教会会員。
 

 

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