ハワイからの手紙 やさしい風に吹かれて-15 セスナ飛行~雲を追いかけて〜

私は空に浮かぶ雲を見るのが大好きです。それは、幼き日に見たテレビアニメの「アルプスの少女ハイジ」の情景からきています。架空とは言え、雲の上で弾むハイジの姿が心に焼きついていて、その快感を一度味わってみたいという思い出があるからです。

 今でもその雲を見上げることが心の癒しの時となっています。雲は風の流れによってさまざまな形に変わり、そこに光が加わると味わいが出て、思わず写真を撮りたくなるような美しい姿となります。その雲の写真を撮っていると日常の雑踏から解放され、心が不思議と安まるのです。

 数年前ここハワイで友人が操縦するセスナに乗る機会が与えられました。あの憧れの雲に近づけるチャンスの到来! 夢と希望を膨らませながら、いざ出発となりました。セスナに乗った感覚は想像とは全く違っていました。セスナはジャンボ機とは異なり、機体からすぐそこに地面が見えるので密着感があります。また、エンジンの「ブゥ〜ン」という大きな音がすぐそばから聞こえ、ドキドキ感と緊張感が体中を覆います。そして、セスナが動き出し風を受け始めるとエスカレーターに乗ったような感じで上にあがり、気がついたら滑走路から離陸して、大空に羽ばたいていくのです。独特のプロペラ音が常に響いてきて、風を切りながら空を泳いでいくのです。

 海と緑に囲まれたワイキキの街を通り過ぎ、東部のココヘッドに向かって飛行。マカプウ岬を通り過ぎた辺りの景色を見ると、まるで宮崎駿監督の「紅の豚」に出てくるパイロットのポルゴ•ロッソになったような思いになりました。右手にはコバルトブルーの海に浮かぶマアナナ•州立海鳥保護アイランド。左手にはコオラウ山脈南端のワイマナロ湾。色鮮やかで切り立つ山々の緑がこんなに種類があったのかということを発見。海とのコントラストはまさに絶景でした。この場所がオアフ島のセスナ飛行で私の最もお気に入りのポイントとなりました。

 そのセスナ飛行中はいつも見上げていた雲がなんと同じ高さになっていました。そして機体は風とともに雲を避けたり、時には薄雲の中に入ったり、また機体からその雲が下に見えたりなど、雲との距離がより近くになりました。それはまるで手に取れるコットンキャンディー(綿飴)のような身近さを感じたのです。甘さも同時に味わえるような体験でした。

 「『わたしの思いは、あなたがたの思いと異なり、わたしの道は、あなたがたの道と異なるからだ。―主の御告げ― 天が地よりも高いように、わたしの道は、あなたがたの道よりも高く、わたしの思いは、あなたがたの思いよりも高い。…』」(イザヤ書五五章八~九節)

 上空を飛ぶ経験を通して私は一つの気づきを得ました。雲ひとつとっても見る高さによって異なった姿が現れる。同じように私たちに起こる出来事も見方によって多様な意味をもちます。一歩離れた所から、または全く異なった次元から見える姿形・現実があるのだということが分かったのです。セスナ飛行は、一つのことにのみこだわる過ちからも私を解き放ってくれたのです。

 

飯島寛子(いいじま・ひろこ)

世界の第一線で活躍したプロ・ウィンドサーファー飯島夏樹さんと結婚。4 人の子ど もを授かったが、夫は肝臓ガンのため2005 年に召天。 夏樹さんが病床で書き遺した『天国で君に逢えたら』(新潮社)など3 冊の著 書は大きな反響を呼び、映画化された。寛子さんも、自身と家族の“それから” を『Life パパは心の中にいる』(同)に綴っている。現在ハワイで、愛する人 を亡くした方をサポートする自助グループのNPO 法人HUG Hawaii や、 ハワイ散骨クルーズBlue Heaven, Inc. の働きに携わる一方、エッセイスト、 ラジオのDJ として活躍。 担当番組「Wiki Wiki Hawaii」が、毎週日曜日の 朝5時からインターFM で放送されている。マキキ聖城キリスト教会会員。

おすすめ記事

ページ上部へ戻る