ハワイからの手紙 やさしい風に吹かれて-20 クリスマスの奇跡
私たちは家族でハワイに移住して九年目になります。これまですでに多くの出逢いと別れがありました。人間の命の尊さはその生きた年月の長さによらないことを、夫・夏樹との別れの時に知りました。永遠のいのちは神からの賜物であることも。そして、私はあるひとりのラジオのリスナーYさんとの出逢いを通して、そのことの確かさに触れる経験をしました。彼との出逢いは三年前に遡ります。
YさんはInter FM「Wiki Wiki Hawaii」のいちリスナーとしてスタジオ・リムを訪れました。Yさんの奥さまはマラソン経験者で、初心者であった私にさまざまなアドバイスをしてくれたのです。そこから意気投合するようになり親しい仲間となりました。
けれども、出逢ってから約半年後の二0一一年七月、Yさんに悪性の脳腫瘍が見つかりました。再びガンとの戦い、私の心は敏感に反応しました。その後、彼は何度も手術を受け続け、病を治してハワイに行きたいという希望を持っていました。その実現のために急遽五度目の手術を受け、退院日と同じ日にYさんは家族と一緒にハワイに来ました。その時に彼がどうしても訪問したいと希望したのがマキキ聖城キリスト教会でした。
二0一二年の待望節、生涯忘れることのできない出来事が起こりました。教会のお礼拝に出たいというYさんを迎えに、私はホテルに行きました。ご家族は彼がガンの末期でもう限られた時間しか残されていないことを心に秘めながら、彼をサポートしていました。車中の会話の中で彼が突然こう話したのです。「寛子さん、ひとつお願いがあるのですが…。今日マキキ教会で洗礼を受けられないでしょうか?」と。私は、あまりの唐突さに驚きを隠せませんでした。
「それは無理なこと。でももしかすると…」と困惑しながら、礼拝直前でスタンバイ中の牧師に相談しました。事情を説明したところ、急遽関係者と協議してくださり、礼拝後に洗礼式をしてくださることとなりました。そのことの実現に至るまでの流れはまさに驚くべきものでした。
礼拝堂で洗礼を受けた後、Yさんは四度目の手術後に見た夢の話をしました。「教科書で見たことがあるザビエルが出て来て、そのザビエルの上にミケランジェロの壁画の向こうの輝きにイエスキリストの姿があったのです。…そのキリストに近づきたいという思いが与えられたのです」と。何の具体的な準備もできずに式に臨むこととなったのですが、まさに神のお導きがあったことを知った時、同席した方々はみな驚き、神をほめ称えました。私たちはクリスマスの奇跡を見たのです。
神は、実に、そのひとり子をお与えになったほどに、世を愛された。それは御子を信じる者が、ひとりとして滅びることなく、永遠のいのちを持つためである。(ヨハネ福音書三章十六節)
Yさんは帰国後二0一三年三月三日に天国に旅立っていきました。享年四五才。私は夫の時とは異なった思いで暖かく見送ることができました。
今年もクリスマスがやってきます。神の御子イエスを信じる者に永遠のいのちを与えてくださるという約束こそ、人類に与えられた最高のプレゼントであることを、私は今実感しています。