《聖書バトルvol.4》長男の権利はどちらに?

左:バートラム・フォン・ミンデン作「イサク、エサウに狩りを頼む」、右:レンブラント・ファン・レイン作「エサウ、ヤコブに長子の権利を売る」

大切な長子の権利。エサウは空腹に負けて安売りし、ヤコブは父をだまして手に入れた。

 聖書の時代の文化では、たとえ双子であっても、長男か次男かでその家における立場は大きく違いました。長男であれば、父の死後、他の兄弟の2倍のものを相続できたのです。
 聖書の中で特別な意味をもつイスラエル民族の父祖アブラハムの孫に双子の男の子が生まれたときにも、この長男の権利をめぐって熾烈な戦いが繰り広げられました。
 双子の母親がみごもったとき、後に起こるバトルを暗示するかのような神からの不思議なことばがありました。それは「二つの国民があなた(双子の母)から分かれ出る。……兄が弟に仕える」というものです。「兄が弟に仕える」とは、普通の秩序の中では起こりえないことが起こるということです。
 出産の時が訪れると、弟ヤコブは兄エサウのかかとをつかんで生まれてきました。ヤコブとは「かかとをつかむ者」という意味の名前です。
 エサウとヤコブは対照的な性格の若者に成長しました。エサウは猟が得意なアウトドア派で、生まれつき与えられている長男の権利に関しては当たり前のものと受け止め、特に重要だとは思っていませんでした。父イサクは、エサウが仕留めてくる獲物を好んでいたため、エサウがお気に入りでした。
 一方、ヤコブは内向的なインドア派で、自分には与えられなかった権利を、常に強く意識していました。母リベカはヤコブを偏愛し、妊娠中の神のお告げが頭に残っていたせいでしょうか、エサウに与えられた長男の権利を、ヤコブに譲らせたいと願っていました。イサクとエサウは気づいていなかったかもしれませんが、リベカとヤコブの心の中には、お家騒動勃発の火種が宿っていたのです。
 ある日、ヤコブが料理をしているところに空腹を抱えたエサウが猟から帰ってきて、「おまえが料理しているその煮物を食べさせてくれ」と頼みました。長男の権利のことが常に頭にあったヤコブはすかさず、煮物と引き替えに長男の権利を譲ってくれ、と持ちかけます。

ホーファールト・フリンク作「イサク、ヤコブを祝福する」

ヤコブは兄を恐れて逃亡!!

 当然のことながら、それは煮物1杯と引き替えにするようなものではありません。そんな提案をするヤコブもヤコブなら、あっさりとその条件をのんだエサウもエサウです。聖書はエサウのこの無頓着ぶりを「こうしてエサウは長子の権利を侮った」(創世記25・34)と表現しています。
 やがて、老いが進んで自分の余生が長くないことを悟った父イサクは、ある日エサウを呼び寄せ、猟に行って獲物を仕留めてくるように命じました。その獲物でご馳走を作り、それを食べて彼に長男の祝福を与えるという儀式を行いたかったのです。エサウは言われたとおりに出かけていきました。
 ところがそれを聞いていた母リベカはヤコブを呼び寄せ、家畜のやぎを料理したものを彼に持たせ、エサウになりすまして長男への祝福をだまし取るように指示します。最初はさすがに怖じ気づいていたヤコブですが、母の強い決意を知ると腹をくくり、視力の衰えた老父をだまして兄になりすまし、長男への祝福を横取りしてしまったのです。
 この「祝福」とは、それを受ける者が神の祝福を受けて、兄弟たちや、国々を治める者となるように、という内容でした。リベカとヤコブにとってはおそらく、イサクの財産を相続することより、この祝福のほうが重要なものだったと思われます。ヤコブがこの祝福を受けることによって、リベカが妊娠中に告げられた神のことばは実現することとなりました。
 しかし、猟から帰ったエサウはこのことを知るとさすがに激怒し、ついに兄弟バトルが激しく燃え上がることとなりました。長男の権利に続いて長男の祝福までかすめ取られたエサウは、余命いくばくもない父が死んだらヤコブを殺してやろうと決意します。
 エサウの思いに気づいたリベカは、自分の兄ラバンが住むハランへヤコブを逃がすことにしました。ヤコブはこの地で結婚をしますが、伯父のラバンにだまされて、彼の下の娘と結婚するはずが、上の娘とも結婚させられ、2人の妻をもつはめになります。彼はここで、だまされる側の悲哀を味わったことでしょう。
 この2人の妻がそれぞれ自分の女奴隷を巻き込みながら、夫との間に1人でも多くの子どもをもうけようと張り合った結果、ヤコブには12人の息子たちが生まれました。この12人が、後にイスラエルの12部族の族長となり、イスラエル民族は神の祝福を世界に運ぶ器となっていくのです。
 その後、ヤコブは故郷に帰ることにし、エサウと何十年ぶりの再会をすることになります。兄への昔の仕打ちを後ろめたく思うヤコブは、この再会を非常に恐れていましたが、エサウは過去をすっかり水に流して、温かく迎えてくれました。
 ヤコブはそれに感謝しつつも、兄への恐れを払拭できなかったのでしょうか、その後も兄とは物理的な距離を取って暮らしました。エサウはエドム人という別の民族の父祖となり、彼の子孫はイスラエルと敵対するようになりました。父母の偏愛を背景にもつ双子のバトルの結果は、歴史に長い影響を及ぼすこととなったのです。          《創世25章、27~33章》

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