ハワイからの手紙 やさしい風に吹かれて-3 ゴールデンタイム
真っ暗闇の中自然に目を覚ますと、時計の針は午前4時。朝が弱く夜型の生活を送っていた私が、ある時から決心してこの時刻に起きるようになりました。子育てで忙しい生活を送るなか唯一ひとり静まれるとき、誰にも邪魔されずに時間を自由に使えるとき、それがこの早朝の時間、朝露が大地に降り注がれるときなのです。私のゴールデンタイムなのです。
それは外気の温度が最も下がる時間帯。空気がひんやりとして張り詰めるような感覚を肌で感じるのです。夜明け前のこの感覚を味わい知るようになり、一日のどの時よりも好きになってしまったのです。その朝の二時間を過ごすことを日課とするようになって、私は健康的になりました。そして、その時間に私は聖書を聴くことを始めるようになったのです。
聖書はもともと聴くものであった、ということを学びました。「信仰は聞くことから始まる」(ローマ10:17)とあるように。これまで聖書は読むものだと思い込んでいた私にとって実は嬉しい発見でした。幼い頃バレエを習っていて、音楽に合わせて踊ることが大好きであった私は、振り返ってみると耳から学びとることが多かったように思います。耳から入ってくる音を通して、体で聖書の言葉を受けとめます。私にとってとても自然なことでした。
聖書の音声データをコンピューターに取り込み、それをゴールデンタイムに聴き始めることにしました。ベッドの上で目をつぶって静かに耳を傾ける。耳から入ってくる聖書朗読の声に集中する。夜明け前の静かな時間に、優しく語りかけてくる神さまの言葉は、心に安らぎの風を運んでくれるのです。何とも言えない安心感が私の心を覆い、不必要な思い煩いから私を解放してくれるのです。新しく始まる一日が憂鬱な思いではなく、積極的な思いと感謝の気持ちでスタートできるようにしてくれるのです。
私はこのゴールデンタイムにトレーニングのために走ることがあります。その際Ipodで聖書を聴きながら走ります。体全体で聖書の言葉を聴くような感覚は、まるで皮膚呼吸をしているような感じで、今までに気づかなかった恵みを味わい知るようになりました。それが湧き出るエネルギーとなり、微笑みがでて、足取りが軽やかになるのです。
ある時「慈しみはとこしえに」(詩編137篇)というフレーズが何ども繰り返される詩編の言葉を聞いていました。神さまは、たとえ私が失敗した時でも、その暖かい愛と恵みで私に赦しを与えてくれると実感したのです。その気づきが私に自由な気持ちを与え、そして、自然と心から感謝が沸き上がってきたのです。これが本当の神の言葉の恵みだと分かった瞬間でした。
「どうか朝には、あなたの恵みで私たちを満ちたらせ
私たちのすべての日に喜び歌い
楽しむようにしてください。
あなたが私たちを悩まされた日々を
私たちがわざわいに会った年々に応じて
私たちを楽しませて下さい。」(詩編90:14,15)
朝飲む水は体にとって「金の水」と言われます。一日のスタートを、世の中の雑音から逃れて、一番大切なこと、聖書と祈りから始めることによって、私には心も体も強められています。草花を潤す朝露のごとく、私の心を潤してくれます。
飯島寛子(いいじま・ひろこ)
世界の第一線で活躍したプロ・ウィンドサーファー飯島夏樹さんと結婚。4 人の子ど もを授かったが、夫は肝臓ガンのため2005 年に召天。 夏樹さんが病床で書き遺した『天国で君に逢えたら』(新潮社)など3 冊の著 書は大きな反響を呼び、映画化された。寛子さんも、自身と家族の“それから” を『Life パパは心の中にいる』(同)に綴っている。現在ハワイで、愛する人 を亡くした方をサポートする自助グループのNPO 法人HUG Hawaii や、 ハワイ散骨クルーズBlue Heaven, Inc. の働きに携わる一方、エッセイスト、 ラジオのDJ として活躍。 担当番組「Wiki Wiki Hawaii」が、毎週日曜日の 朝5時からインターFM で放送されている。マキキ聖城キリスト教会会員。