カインとアベル:人類最初の殺人 神への思いの差が生んだ悲劇

神へのささげ物への評価

エデンの園を追い出されたアダムとエバですが、その後この夫婦にはカインとアベルという2人の息子が生まれます。カインは農業を営む者になり、アベルは羊飼いになりました。
あるとき2人は、それぞれ神にささげ物をしますが、カインが持っていった畑の作物というささげ物は神に受け入れられず、アベルが持っていった羊の初子は受け入れられました。
この箇所は、神が好むささげ物とそうではないささげ物があるというふうにも読めてしまいそうですが、聖書全体を読むと、神はいつでも人がささげ物をするときの心の在り方を問題にしています。悔い改めをすることなしに動物のささげ物を持ってくる民に向かっては、「わたしは、雄羊の全焼のささげ物や、肥えた家畜の脂肪に飽きた」(イザヤ1・11)と言っていますし、イエスは、貧しい未亡人が少額の献金をする姿を見て、「この貧しいやもめは、……だれよりも多くを投げ入れました。皆はあり余る中から投げ入れたのに、この人は乏しい中から、持っているすべてを……投げ入れたのですから」(マルコ12・43〜44)と言っています。
この箇所でも、アベルのささげ物だけが受け入れられたのを見て怒るカインに、神は「あなたが良いことをしているのなら、受け入れられる」(創世記4・7)と諭しています。カインのささげ物のどこが具体的に悪かったのかはわかりませんが、ささげ方に問題があったことは明らかです。
神はさらに、逆恨みをしているカインに向かって「良いことをしていないのであれば、戸口で罪が待ち伏せている。罪はあなたを恋い慕うが、あなたはそれを治めなければならない」(同7節)と警告しました。この時点であれば、カインは逆恨みを引っ込め、自分のささげ物について反省をするチャンスがあったのですが、彼はそうすることができずに、その不当な怒りの矛先をアベルに向けました。カインはアベルを野に誘い出し、殺してしまったのです。

カインはエデンの東ノデへ

その後、神がカインに「アベルはどこにいるのか」と尋ねると、カインは、「知りません。私は弟の番人なのでしょうか」と何ともふてぶてしい答えを返します。エデンの園で「何ということをしたのか」と神にただされた時の彼の両親の姿を彷彿させる姿でもあります。
しかし神に、「あなたは弟を殺したのでこの地を追い出される」と宣言されるとその態度は一変し、「追い出されたら誰かに殺される」と神にすがりつきます。神はそんなカインにもあわれみ深く、彼を守るためのしるしを与えたうえで彼を追放します。
追放されたカインはエデンの東にあるノデという地に移り住むことになりました。そしてそこで結婚し、エノクという子どもを授かり、自分が建てた町にもエノクという名前をつけました。

ノアの誕生
アベルが殺され、カインは追放され、悲しみにくれるアダムとエバのもとには、その後、セツという息子が生まれます。セツが成長して、彼にもエノシュという男の子が生まれるころ、「人々は主の名を呼ぶこと(祈ること)を始めた」(創世記4・26)と聖書は記しています。そして、このセツから9代目に、ノアが生まれました。「ノアの箱舟」で有名なノアです。
ノアは、「神とともに歩んだ」(創世記6・9)と聖書に記されている正しい人です。次の項目では、そのノアがどうして、箱舟に乗って大洪水を生き延びることになったのかについて見ていきましょう。


カインコンプレックス

兄弟姉妹の関係で競争心やどちらかの嫉妬が高じて苦しんだ経験があると、その葛藤は兄弟・姉妹以外の関係にも投影され、周囲の人間に対して憎悪の感情を抱くことがあるといいます。
カインコンプレックスは、そのような心的葛藤を精神分析家のG・ユングが、創世記のカインとアベルの記事から名づけた概念として知られています。

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