ハワイからの手紙 やさしい風に吹かれて-41 月下美人

三男の多蒔(タマキ)は四年前から夏限定で、サマー・スクールのために「プナホウ・スクール(略称:プナホウ)」に通っています。プナホウはあのオバマ大統領の出身校で、ハワイで屈指の名門校の一つです。わが家からは徒歩十分の距離にあり、タマキを小学校に送迎していた頃から、毎朝そこを通っていました。

そのプナホウの周囲は、実は私の早朝ランニングのコースの一つ。夏の朝はマノアから降りてくる爽やかな空気が流れ、それはとても新鮮でマイナスイオンに満ちています。走りながらにして癒やされる思いとなります。六月、プナホウの学校の生け垣にはあの「月下美人」が咲き始めます。心に触れるような美しい夏の花です。

月下美人は夜に咲く花として知られています。凛として咲く最も美しい瞬間は朝露が降りる頃と言われています。ここオアフ島で月下美人が見られる場所は、プナホウの他に、ホノルル市内のタンタラスの丘、ノースショアにあるリリウオカラニ教会のアーチと石垣(挿絵)が有名です。

 さて、月下美人の花言葉は「はかない美」、「はかない恋」です。たった一日だけ咲く、それも多くの人の目には触れずに散ってしまう。その束の間の花の命の特徴からくるのでしょう。他に「佳人薄命」という言葉もありますが、とかく美しさとはかなさは対となって、その虚しさが強調されます。でも私は自然の月下美人に触れて、それ自体がもつ命の力の尊さを思うようになりました。「美しくてもはかない」というより、「はかないからこそ美しい」という命の不思議さ。それは植物だけなく、私たち人間もそうなのだと思います。

 先日仕事で北海道札幌市を訪れました。ラジオのリスナーで余命宣告を受けたOさんという方がおられ、短い時間でしたが彼の家族とお会いしました。私に会うために外泊許可を得てこられたのですが、もう体はかなり弱っておられました。二人の幼い子供をもち、彼の奥様は看護師をしておられます。彼らは病気のことを良く理解しそれを受けとめ、そして、与えられている日々をしっかり生きようという姿がありました。それが以前の自分たちの姿と重なり、私の目はいつの間にか涙でいっぱいでした。その時、その方の目がとても美しく輝いていたのです。優しさと強さをもったあの美しい目を忘れることができません。

 はかなさは消えてなくなるというもろさや虚しさだけを生むのではありません。はかないからこそ美しくかけがえのないものとなります。人間もはかない存在だからこそ美しく輝けるのです。たとえ大衆の前で脚光あびる存在でなくても、美しく最期まで生きることができるのです。「神さまそうですよね!」と心の中でつぶやいていました。北の国での一期一会の出逢いとなりました。

 「主よ。お知らせください。私の終わり、私の齢が、どれだけなのか。私が、どんなに、はかないかを知ることができるように。」(旧約聖書•詩篇三九:四)

 「はかなさ=儚さ」の語源は「人の世は夢のごとし」と言われます。はかなさを知る時、人間は心から永遠を求めるようになります。亡き夫・夏樹はその答えを聖書に見出して旅立って行きました。今ではそれが私たち残された家族の生ける望みとなったのです。そして、その命ははかなくともつながり続けていくのです。
 

 

 

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