《聖書バトルvol.5》1人の預言者が真っ向勝負

左:デゥラ・エウロポス(シリア)のシナゴーグ(ユダヤ教会)跡内に描かれたフレスコ画、右:ルーカス・ファン・レイデン作「イザベルとアハブ」

聖書の神を信じるエリヤは、バアルの神を奉じる預言者500人と、全面対決へ。

 イスラエルの民は、神の祝福を全世界に運ぶために選ばれた民族として、唯一神への信仰を保つために異国人との結婚を禁じられていました。けれどもイスラエル3代目の王ソロモンはその戒めを守れず、イスラエル以外の国から大勢の女性をめとりました。すると案の定、その影響から、聖書の神以外の神を礼拝をするようになってしまいました。そしてそのことへのさばきとして、イスラエルはソロモンの子どもの時代に南王国と北王国に分裂し、神から離れた荒んだ時代を迎えてしまいます。
 ソロモン以降の歴代の王たちも、ごく少数の例外を除いて同様で、神の怒りを招きました。中でも、悪名をとどろかせたのが北王国の第7代王のアハブです。彼の異国人妻、イゼベルの凶悪さが際立っていました。
 聖書には「アハブのように、自らを裏切って主の目に悪であることを行った者は、だれもいなかった。彼の妻イゼベルが彼をそそのかしたのである」(Ⅰ列王21・25)と記されており、彼女の名前は英語圏では悪女の代名詞として使われることがあるほどです。この最悪の王と妃は、神が2人のもとに遣わした預言者エリヤと激しい戦いを繰り広げましたが、その戦いはおもにイゼベル主導のものでした。
 イゼベルは肥沃祭儀の神々であるバアル神やアシェラ神を信仰するシドンという国の王女で、彼女と結婚したアハブは、これらの神々の祭壇や像を建てて礼拝しました。これだけでも、イスラエルの王としては致命的な罪を犯したことになりますが、イゼベルはさらに、偶像の神々を代表して戦いを挑むかのように、イスラエルの神の預言者たちを殺しました。
 神はアハブのもとにエリヤを遣わし、そこにイスラエルの国民と、イゼベルの手下であるバアルの預言者450人とアシェラの預言者400人を集めさせました。エリヤはイスラエル人に向かって、「偶像の神々とイスラエルの神の間で、いつまでどっちつかずの態度をとるつもりか。今から私1人で、バアルの預言者400人と対決するから、どちらにつくのかはっきりしろ」と迫りました。

ジュアン・バルデス・リール作「エリヤの昇天」

いけにえに神の火を求め400人vs1人の祈祷対決

 対決の方法は、いけにえの牛を薪の上に乗せ、バアルの預言者とエリヤがそれぞれ、自分の神に向かって火を下してくれるように祈り、その祈りに火をもって答える神こそ本当の神だ、というものでした。バアルの預言者たちは必死で祈りましたが何も起こりません。次にエリヤが、いけにえにたっぷり水をかけ、いけにえの回りにも溝を掘って水を満たすというハンデをつけたうえでイスラエルの神に祈ると、火が降ってきていけにえを焼き尽くし、溝の水もすっかり蒸発してしまいました。
 このようにしてイスラエルの民に自分たちの唯一の神の圧倒的勝利を見せつけたエリヤが「バアルの預言者たちを捕らえよ。1人も逃すな」と命じると、イスラエル人たちはバアルの預言者たちを追いかけて行き、捕まえて殺しました。
 イゼベルはこれを聞くと、次の日までに必ずエリヤを殺すと予告しました。激しい戦いのあとで弱っていたエリヤは疲れ果て、恐れに取りつかれてしまいましたが、神は彼をかくまい、力づけたうえで弟子を与え、新たな任務を与えます。
 一方イゼベルは、さらに凶悪な罪を重ねていきました。あるときアハブが宮殿の隣にあったぶどう畑を気に入り、その持ち主のナボテに売ってくれるように頼みましたが、断られてしまいました。
 アハブは機嫌を損ねながらもしぶしぶ引き下がりました。ところが、夫の不機嫌なようすに気づいたイゼベルはその訳を聞くと、王が好きなものを手に入れられないとは何事かと言ってナボテを殺し、その土地を奪い取ってしまうのです。
 神は再びアハブのもとに預言者エリヤを遣わし、「犬がナボテの地をなめたその場所で、その犬どもがあなたの血をなめる。また、イゼベルを食う」と言わせました。この預言は、その後に起こった戦争の中で成就しました。アハブは、1人の兵士が「何気なく放った」弓矢が防具のわずかな隙間から体に命中して死にました。彼の血は戦車のくぼみに流れ、人々がその戦車を洗った池で犬たちがその血をなめました。
 またイゼベルは、建物の階上から敵がやってくるのを見下ろしていた時に、後ろから部下に突き落とされて死にました。しばらくして敵が、元王女に対するせめてもの情けとして葬ってやろうと死体を回収に行くと、死体はすでに犬に食われ、頭蓋骨と両足、両手首しか残っていませんでした。
 一方エリヤは、弟子のエリシャという後継者が現れたあと、預言者としてのすべての任務を終えると、突如現れた火の馬が引く火の戦車に乗せられて、たつまきによって天に上げられて行きました。イゼベルが必ず殺すと誓った彼は、地上での死を見ることなく、この世を去っていったのです。
 このようにして、アハブ・イゼベル対エリヤの激しい戦いは、すべて神によって決着しました。しかし残念なことに北王国は、この極悪夫婦亡き後もイスラエルの神に立ち返ることはなく、やがてアッシリアに敗れて捕囚となり、滅亡してしまいます。
《Ⅰ列王18~19章、21~22章、Ⅱ列王2章、9章》

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