ユダ:イエスを売った男 イエスを口づけで裏切った弟子
イスカリオテのユダは、イエスを裏切った男として、12弟子の中でもいちばん有名かもしれません。ユダは金銭への執着が強い人間でした。ある女性がイエスの足に非常に高価な香油を塗って愛と尊敬を表したとき、ユダは「どうして、この香油を売って、貧しい人々に施さなかったのか」ともっともらしいことを言いましたが、それは、「彼がこう言ったのは、貧しい人々のことを心にかけていたからではなく、彼が盗人で、金入れを預かりながら、そこに入っているものを盗んでいたからであった」(ヨハネ12・6)という記述があります。
また、これはユダに限ったことではなくイエスの弟子たち全般にいえることですが、彼らには、イエスがローマに牛耳られているユダヤで革命を起こし、新しい王国を築いてくれるのではないかという期待がありました。
この期待は、イエスの話に耳を傾けていたユダヤの群衆も抱いていたものでした。イエスが語る「天の御国」がこの世の王国ではないらしいと気づくと、彼らは一様に失望し、それは弟子たちも例外ではありませんでした。
そのような状況のもと、ユダは自分が手引きをしてイエスを捕らえさせるから金をくれと、律法学者や祭司長たちに話を持ちかけます。そして銀貨30枚という報酬を受け取った時から、イエスを彼らに引き渡す機会を狙っていました。
自分がもうすぐ十字架にかけられることを知っていたイエスがゲツセマネという園で祈って備えているとき、ユダは、祭司長たち、武装した群衆を引き連れてやってきました。そして、あらかじめ「私が口づけをするのがイエスだ」と示し合わせていたとおり、イエスに歩み寄ると口づけし、敵に売り渡したのです。
敵を恐れ、イエスを置いて逃げた他の弟子たちも、イエスのことを「知らない人だ」と否んだペテロもイエスを裏切ったことには違いありませんが、ただ1人、能動的にイエスを売り渡したユダの裏切りは、他の弟子たちのそれとは一線を画するものがあります。
その後のユダの心の動きがどういうものであったのか正確に知ることはできませんが、聖書は「イエスを売ったユダはイエスが死刑に定められたのを知って後悔し、銀貨三十枚を祭司長たちと長老たちに返して、言った。『私は無実の人の血を売って罪を犯しました。』しかし、彼らは言った。『われわれの知ったことか。自分で始末することだ。』そこで、彼は銀貨を神殿に投げ込んで立ち去った。そして出て行って首をつった」(マタイ27・3〜5)と記しています。