ルツ:キリストの系譜に連なる 義理の母が信じる神を自分も信仰
人間の愚かさや残酷さが招いた悲惨な事件の数々をつづった士師記のあとに、ルツ記という短い、でも、実にすがすがしく美しい物語が続きます。
時代は、士師記と同じ頃で「さばきつかさ(=士師)が治めていたころ」(ルツ記1・1)、イスラエル人のある一家が、飢饉を逃れてモアブという所に移住しました。夫の名はエリメレク、妻はナオミ、そして2人の息子がいましたが、エリメレクはこのモアブで亡くなりました。
2人の息子はそれぞれモアブの女性を妻に迎え、息子夫婦とナオミの生活が10年ほど続きましたが、やがてこの2人の息子も死んでしまい、あとには姑のナオミと、兄嫁のルツ、弟嫁のオルパが残されてしまったのです。夫も息子も失ったナオミは、故郷のユダに帰ることにしましたが、嫁たちにとってはこのモアブが故郷です。ナオミは、2人の嫁に家に帰って再婚するように勧めました。
弟嫁のオルパは、最初こそ「いいえ、一緒に行きます」と言っていましたが、ナオミが重ねて帰宅を促すと、泣きながら去っていきました。ところが、兄嫁のルツのほうは、いくら勧められても頑として聞かず、姑に向かって「お母様を捨て、別れて帰るように、仕向けないでください。……あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です」(同1・16)とまで言いました。これを聞いたナオミは説得をあきらめ、ルツを伴ってユダへと帰っていきました。
イスラエルには、貧しい者への救済策として、「落ち穂拾い」という制度がありました。これは、収穫に際し、貧困者がその分け前にあずかれるように畑の隅々まで刈ってはならない、畑に束を置き忘れたときは、それを取りに戻ってはならない、というものです。
ナオミもルツも未亡人であり、この時代にあっては困窮するしかない身の上でした。ルツは、自ら進んでこの落ち穂拾いの作業に出かけ、姑を養おうとしました。
ルツが出かけていった畑は、「はからずもエリメレクの一族に属するボアズの畑であった」(同2・3)と聖書は記しています。農作業の見回りにきたボアズは、自分の親族で今は未亡人となったナオミの嫁が、自分の故郷を捨ててナオミと一緒にユダにやってきて、ここでこうして落ち穂拾いをしていることを知りました。
ボアズはルツに、よその畑には行かず、これからもずっと自分の畑で落ち穂拾いをするように言い、使用人たちには、ルツのためにわざと穂を落としてたくさん拾わせるようにと密かに言い含めます。
ルツが、その日に受けた親切をナオミに報告すると、ナオミはそれが自分たちの親類であることに気づき、ルツがボアズと再婚することを願い、働きかけ始めました。この当時、夫を失った女性には自活するすべがありませんでしたが、その場合の救済策もあり、条件がそろえば活路が開けました。
ナオミの願いどおり、ボアズは律法どおりの手順を完全に踏んだうえで、ルツを妻にしました。そしてやがて2人の間にオベデという息子が生まれます。そしてこのオベデの孫に当たるのが、イスラエルのすばらしい王としてあまりにも有名なダビデです。さらに、ダビデの子孫として、のちにこの家系から生まれることになるのがイエス・キリストなのです。
祝福された異邦人ルツ
旧約聖書に記されている律法は、イスラエル人に他国人との結婚を禁じていました。けれどもそれは、イスラエル人の「純血」を守るという民族主義的な理由からではなく、他国の異教からイスラエルを守るためでした。
実際には、他の律法と同様、この律法も守られず、多くのイスラエル人が外国人と結婚し、その国の宗教に流されていきました。
しかし、ルツは反対にイスラエルの神を自分の唯一の神と告白して従った外国人妻でした。聖書はそんな彼女をイエス・キリストにつながる系図に加えたのです。