ダビデ:王国を安定させて拡大 巨人を倒した羊飼いの少年

あるとき、ペリシテ人たちがユダに攻め上ってきて、それを迎え撃つイスラエル軍と谷を隔てて対峙しました。ペリシテ軍にはゴリヤテという身長3メートル近くの巨人がいて、イスラエルに、代表戦士を1人出して自分と一騎打ちをしろと言ってくるのですが、それを受けて立つ勇気のある者は誰もいませんでした。
ダビデの兄たちも、サウルに付き従ってその場にいました。まだ若いダビデは招集されていなかったのですが、父の言いつけで兄たちに食糧を差し入れにいったときにゴリヤテが現れ、いつもどおりの挑発を始めました。
ダビデは、イスラエルのみならず、イスラエルの神を侮辱しているゴリヤテのことばを聞くと怒りに燃え、自分が相手になると申し出ます。ダビデのことをまだほんの子どもだと見なしていたサウルは驚いて止めますが、ダビデは、自分は羊飼いをしていて、神の助けで野生の動物たちを倒してきたのと同じように、ゴリヤテのことも倒せると宣言しました。
そこまで言うなら、とサウルも承知し、自分のよろいとかぶとを与えますが、小柄なダビデはそれらを身に着けると自由に身動きできませんでした。結局、羊飼いとしていつも身に着けている石と石投器だけを使い、ダビデはゴリヤテのみけんを打ち、殺してしまいます。
その後、ダビデはサウル王の側近となり、武勲を上げるのですが、国民からの人気が高まるにつれ、サウル王に嫉妬され、命を狙われるようになり、王の下を離れます。

王として名を馳せるダビデ

その後、サウル王親子が戦闘で死んだことを、逃亡先でダビデが知らされると、自分の出身地であるユダに戻り、ユダ部族の王となりました。一方、サウルの将軍アブネルは、サウルの息子の生き残りであるイシュ・ボシェテを、ユダを除く11部族のイスラエルの王としました。しかし、のちにアブネルとイシュ・ボシェテの間にいさかいが起こると、アブネルはダビデのもとに行き、ダビデを全イスラエルの王にすることを画策します。
複雑な派閥争いや恨みつらみのために、アブネルもイシュ・ボシェテも非業の死を遂げますが、アブネルのもくろみは実現し、……というよりも、実は、神がサムエルを通して告げた預言が実現し、ユダで王位についてから7年半後、ダビデはエルサレムに拠点を移し、全イスラエルの王となりました。
その後、ダビデの率いるイスラエル軍は快進撃を続け、ついに長年の敵、ペリシテを屈服させるに至りました。けれども、近隣諸国に次々と勝利を収め、名君主としての名を馳せるうちに、いつしかダビデの心にもおごりが生じていたのでしょうか。あるとき、彼は大変な罪を犯してしまいます。
部下たちが遠征に出ている間、エルサレムにとどまっていたダビデは、王宮の屋上を歩いているとき、1人の女性が沐浴している場面を目撃し、その女性に心引かれてしまいます。調べてみると、それはバテ・シェバという女性で部下ウリヤの妻だということがわかったのですが、ダビデはそこで踏みとどまることなく、彼女を呼び寄せ、男女の関係をもってしまいます。その後、彼女が身ごもったことを知ると、ダビデは戦死に見せかけてウリヤを殺すという恐ろしい罪を重ねました。そして、喪が明けると、バテ・シェバを自分の妻にしたのです。

神はダビデの前に預言者ナタンを遣わし、その罪を糾弾します。ダビデは自分の罪を認めて深く悔い改めました。そのときのダビデの祈りが詩篇51篇に記されています。
「私はあなたに ただあなたの前に罪ある者です。私はあなたの目に 悪であることを行いました」(4節)
「私に きよい心を造り 揺るがない霊を 私のうちに新しくしてください」(10節)
自分の罪を徹底的に悔い、神との関係が損なわれないことを願う姿は、罪を犯したととがめられても、ただ王としての面目を保つことしか考えられなかったサウルとはまったく違いました。
神はダビデを離れることはありませんでした。しかし、罪を犯せばその結果を刈り取らざるをえないということも、また事実です。2人の間に生まれた子どもは、生後間もなく亡くなりました。
また、ダビデには、バテ・シェバのほかにも妻にした女性たちがたくさんおり、ダビデ王を父とする多くの異母兄弟の間で忌まわしい事件も起こり、それがきっかけで三男アブサロムは、父ダビデに反乱を起こしたあげく、殺されるという悲惨な末路をたどりました。
聖書はダビデの神に対する深い愛と信頼、勇敢なふるまいを記しつつ、彼を完全無欠のヒーローとして描くことはしませんでした。時に恐れにとらわれ、うそをつき、愛欲に目がくらんで罪を犯し、その結果に苦しみつつも一貫して神を慕い求めたダビデのありのままの姿を書き記しています。そして、恐れや罪を悔いる心から彼が書いた詩篇は、今の時代の人々の心にも深く響き、慰めと励ましとなっているのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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